高級旅館

べにや無何有は何が違う?加賀山代の”侘び”を味わう全17室の静寂滞在を紹介

「静かな宿で心からゆっくり過ごしたい」と思ったとき、どんな場所を想像しますか?

加賀山代温泉の高台に佇む「べにや無何有」は、からっぽの中にこそ豊かさがあるという禅の思想を体現した宿です。全17室すべてに源泉露天風呂が付き、窓の向こうには樹齢300年の赤松が迎える山庭が広がっています。

ミシュランガイドで1キーを獲得し、世界の名だたる高級宿が加盟するルレ・エ・シャトーにも名を連ねるこの旅館は、ただ豪華なだけではありません。むしろ、何もしない贅沢を味わうための空間が丁寧に設計されているのです。

べにや無何有とは:加賀山代温泉の高台に佇む静寂の宿

薬師山の高台という特別な立地に建つ、べにや無何有。その名前には「からっぽのなかの豊かさ」という意味が込められています。

1. 何もない豊かさを体現する宿の名前

「無何有」という名前は、中国の思想家・荘子の言葉から取られています。「何も無い有る」という一見矛盾した響きですよね。

これは禅の思想そのものです。余計なものをそぎ落とした空間だからこそ、自分自身と向き合える時間が生まれます。実際に館内を歩いてみると、過度な装飾はどこにもありません。

土間づくりのロビー、シンプルな客室、静かに佇む山庭。すべてが「引き算の美学」で構成されているのです。

2. 薬師山の高台という特別な立地

べにや無何有が建つのは、山代温泉の中でも薬師山と呼ばれる高台です。この場所は古くから修験者たちが修行を行っていた神聖な土地でもあります。

高台だからこそ味わえる静けさがあります。温泉街の喧騒から少し離れた場所で、鳥のさえずりや風の音だけが聞こえてくる環境です。

標高が高い分、見晴らしも抜群です。客室の窓からは四季折々の山庭が一望でき、特に秋の紅葉と冬の雪景色は息をのむ美しさだといいます。

3. 世界に認められた高級旅館という証

2009年にルレ・エ・シャトーへ加盟したべにや無何有は、日本国内だけでなく世界からも注目される存在になりました。ルレ・エ・シャトーとは、厳しい審査基準をクリアした世界の一流ホテルと旅館だけが加盟できる組織です。

さらに2024年には、ミシュランガイドで1キーを獲得しています。この評価は「特別な滞在」を意味し、旅上手な人ほど選ぶべき宿という位置づけです。

評価されているのは、ハード面だけではありません。さりげないもてなし、心遣い、質感といった目に見えにくい部分こそが、この宿の真の価値なのです。

全17室すべてに温泉露天風呂:客室タイプと特徴

全17室という客室数は、決して多くありません。むしろ、一人ひとりのゲストに丁寧なサービスを提供するための適切な規模なのでしょう。

1. 和室4室:畳の上で寛ぐ伝統的な空間

畳の上で寝転がる心地よさは、やはり日本人の感性に深く響きますよね。和室4室は、伝統的な旅館の佇まいを残しながらも、現代的な快適さを兼ね備えています。

窓際には露天風呂が配置され、畳に座りながら山庭の景色を眺められます。障子から差し込む柔らかな光が、部屋全体を優しく包み込んでくれるのです。

和室ならではの低い視点が、不思議と心を落ち着かせてくれます。天井の高さや空間の広がりが、洋室とは全く異なる寛ぎを与えてくれるはずです。

2. 洋室2室とジュニアスイート2室:ベッドで過ごす快適性

「旅館だけどベッドで眠りたい」という方には、洋室2室とジュニアスイート2室が用意されています。布団での就寝に慣れていない方にとっては、こちらの方が体への負担が少ないかもしれません。

洋室といっても、西洋風のホテルライクな雰囲気ではありません。あくまで和の趣を残しながら、ベッドという寝具を取り入れた空間設計になっています。

ジュニアスイートは少し広めの設計で、リビングスペースと寝室が緩やかに分かれています。夫婦やカップルで訪れたときに、それぞれの時間を持ちながらも一緒にいられる絶妙な距離感です。

3. エグゼクティブスイート6室:95〜100㎡の広々とした和洋室

エグゼクティブスイートは、べにや無何有の中でも最も人気が高い客室タイプです。95〜100㎡という広さは、都内のマンション1戸分に相当します。

和室と洋室の良さを組み合わせた設計で、リビング、寝室、そして露天風呂が独立した配置になっています。連泊しても窮屈さを感じることは一切ないでしょう。

大きな窓からは山庭が一望でき、まるで別荘に滞在しているような感覚になります。時間を忘れてソファに座り、ただ景色を眺めるだけで心が満たされていくのです。

4. 特別室「若紫」「白緑」:究極のプライベート滞在

最上級の滞在を求めるなら、特別室「若紫」と「白緑」がおすすめです。この2室は他の客室とは一線を画す広さと設備を誇っています。

特別室には専用の庭が付き、完全にプライベートな空間が保たれています。他のゲストと顔を合わせることなく、自分たちだけの時間に没入できるのです。

名前の由来は源氏物語と日本の伝統色から取られています。色彩の美しさと物語性を持つ部屋名が、滞在そのものを一つの物語へと昇華させてくれます。

山庭という自然:客室から眺める野趣あふれる風景

べにや無何有の魅力を語る上で、山庭の存在は欠かせません。この庭は人工的に作られた日本庭園ではなく、自然の地形をそのまま活かした野趣あふれる空間です。

1. 樹齢300年の赤松が迎える森の庭

山庭の中心には、樹齢300年を超える赤松が堂々と立っています。江戸時代から続くこの木は、まるで宿の守り神のような存在です。

300年という時間の重みを感じさせる幹の太さと、天に向かって伸びる枝ぶりは圧巻です。朝日に照らされた赤松の姿を客室から眺めると、自然への畏敬の念が自然と湧いてきます。

この赤松を中心に、17の客室が山庭を囲むように配置されています。どの部屋からも赤松が見えるという設計は、建築家の綿密な計算によるものです。

2. 四季で表情を変える苔と樹々

山庭の地面を覆う苔は、季節ごとに異なる表情を見せてくれます。春には新緑の苔が瑞々しく輝き、夏には深い緑に染まります。

秋になると紅葉した落ち葉が苔の上に散り、冬には雪が静かに積もっていく様子が見られます。同じ場所でも訪れる季節によって全く違う景色に出会えるのです。

苔の手入れは毎日欠かさず行われています。人の手が入りながらも自然そのままの姿を保つという、日本庭園の美学がここにも息づいているのです。

3. 窓から流れ込む自然との一体感

べにや無何有の客室は、大きな窓が特徴的です。窓を開けると山庭の空気がそのまま部屋の中に流れ込んできます。

風の音、鳥のさえずり、木々が揺れる音。都会では聞こえない自然の音が、心地よいBGMとして滞在中ずっと耳に届きます。

特に朝の時間帯は格別です。朝霧が山庭を包み込む幻想的な景色を、露天風呂に浸かりながら眺める贅沢は、ここでしか味わえません。

建築家・竹山聖が設計した美意識の空間

べにや無何有の建築を手がけたのは、建築家の竹山聖氏です。彼の設計思想は「余白の美」を大切にすることでした。

1. ミニマルな中に漂う上質さ

竹山聖氏の設計は、とにかくシンプルです。装飾を削ぎ落とし、素材そのものの美しさを際立たせる手法が特徴的です。

コンクリート、木、竹、和紙といった素材が、それぞれの質感を主張しすぎることなく調和しています。触れたときの感触、光の当たり方、時間帯による見え方の変化まで計算されているのです。

ミニマルだからこそ、一つひとつのディテールが際立ちます。ドアノブの位置、照明の色温度、家具の高さ。すべてが絶妙なバランスで配置されています。

2. 障子と畳、竹という日本の素材選び

べにや無何有では、日本古来の素材が随所に使われています。障子の柔らかな光、畳の香り、竹の凛とした佇まい。

これらの素材は単なる装飾ではなく、空間の温度や湿度を調整する機能も持っています。エアコンだけに頼らない快適さが、自然素材によって実現されているのです。

特に障子の使い方は秀逸です。直射日光を和らげながらも部屋を明るく保ち、プライバシーを守りながらも閉塞感を与えません。

3. 土間づくりのロビーと方林という道場空間

エントランスを入ると、まず目に入るのが土間づくりのロビーです。靴を脱いで上がるのではなく、土間の上を歩いて奥へと進んでいきます。

この土間という空間が、外と内の境界を曖昧にしています。完全に外でもなく、完全に内でもない。その中間領域が、心の準備をするための時間を与えてくれるのです。

館内には「方林」と呼ばれる道場のような空間もあります。ここでは早朝に瞑想や呼吸法を体験でき、禅の思想に触れる機会が用意されています。

スパ円庭施術院で受ける薬師山トリートメント

べにや無何有には「スパ円庭施術院」という専用のトリートメント施設があります。ここで受けられる施術は、一般的なスパとは全く異なるものです。

1. 温泉と薬草を使った伝統的な癒し

スパ円庭施術院の最大の特徴は、温泉と薬草を組み合わせたトリートメントです。薬師山という土地の名前が示す通り、この地域には古くから薬草文化が根付いています。

施術で使われる薬草は、地元で採れた自然のものです。季節によって使う薬草が変わり、その時期に最も効果が高いものが選ばれます。

温泉に浸かった後の体は、薬草の成分を吸収しやすい状態になっています。この相乗効果が、深いリラクゼーションをもたらしてくれるのです。

2. 古来の僧侶が行っていた施術の再現

薬師山では、かつて修験者たちが温泉と薬草を使った治療を行っていました。スパ円庭施術院の施術は、その古来の手法を現代に蘇らせたものです。

僧侶たちが修行の合間に行っていた指圧やマッサージの技法が、今も受け継がれています。強すぎず弱すぎず、体の芯まで届くような絶妙な力加減です。

施術中は余計な会話はありません。静寂の中で自分の呼吸と体の声に耳を傾ける時間が、心身の調和を取り戻してくれます。

3. オーダーメイドで調合される薬草玉

施術の目玉は、オーダーメイドで調合される薬草玉です。事前のカウンセリングで体の状態を確認し、その人に最適な薬草の配合が決められます。

温めた薬草玉を体に押し当てることで、じんわりと温かさと香りが浸透していきます。この感覚は言葉では表現しきれないほど心地よいものです。

施術後は体が軽くなり、深い眠りにつけるといいます。翌朝目覚めたときの爽快感は、まるで生まれ変わったような感覚だそうです。

地元の幸を活かした会席料理という愉しみ

旅館での食事は、滞在の中でも最も楽しみな時間の一つですよね。べにや無何有の会席料理は、地元・加賀と能登の食材を中心に構成されています。

1. 季節ごとに変わる献立の魅力

会席料理の献立は、季節ごとに完全に入れ替わります。春には山菜、夏には鮎、秋には松茸、冬にはズワイガニと、その時期にしか味わえない食材が並びます。

料理長が毎朝市場に足を運び、その日最も良い状態の食材を仕入れています。だからこそ、同じ季節でも訪れる日によって少しずつ内容が変わるのです。

器にもこだわりが見られます。九谷焼や輪島塗といった地元の伝統工芸品が使われ、料理と器の調和が一つの芸術作品のようです。

2. 鮨懐石や能登牛など選べるアップグレード

通常の会席料理に加えて、アップグレードメニューも用意されています。特に人気なのが鮨懐石と能登牛のコースです。

鮨懐石では、日本海で獲れた新鮮な魚介が握りや刺身で提供されます。能登の漁港から直送される魚は、鮮度が命です。

能登牛は、石川県が誇るブランド牛です。きめ細かなサシと柔らかな肉質が特徴で、口の中でとろけるような食感が楽しめます。

3. 連泊でも楽しめる異なる献立の工夫

べにや無何有では連泊する人も多いため、2泊目以降は全く異なる献立が提供されます。同じ食材が続かないよう、細かく配慮されているのです。

食事の場所も選べます。基本は客室での食事ですが、洋室に宿泊する場合はダイニングでの食事になります。

朝食も手抜きがありません。炊きたてのご飯、焼きたての魚、自家製の豆腐。シンプルだからこそ、素材の味が際立つ朝食です。

館内で過ごす時間:3つの図書室とアート空間

べにや無何有では、観光に出かけるよりも館内でゆっくり過ごす方が多いといいます。それだけ、館内の設備と空間が充実しているのです。

1. メインライブラリーとフォレストライブラリー

館内には3つの図書室が用意されています。メインライブラリーは、建築・アート・哲学などの専門書が揃う大人の書斎のような空間です。

フォレストライブラリーは、山庭に面した静かな場所にあります。窓際のソファに座って本を読んでいると、時間の感覚が消えていきます。

蔵書は約3000冊にも及び、宿泊者なら自由に手に取ることができます。気に入った本は客室に持ち帰って、寝る前にゆっくり読むこともできるのです。

2. ライブラリーゼロに展示される現代アート

3つ目の図書室「ライブラリーゼロ」は、少し特殊な空間です。ここには本だけでなく、現代アート作品が展示されています。

展示される作品は定期的に入れ替わり、地元のアーティストから国内外の作家まで幅広いです。宿泊しながらギャラリー巡りをしているような感覚になります。

アートと本と自然が共存する空間は、創造性を刺激してくれます。普段忙しい日常では思いつかなかったアイデアが、ここでは自然と湧いてくるかもしれません。

3. 何もしない贅沢を味わう余白の時間

べにや無何有の最大の魅力は、何もしなくていいということです。予定を詰め込まず、ただ館内を散歩したり、露天風呂に入ったり、窓の外を眺めたりするだけで十分なのです。

チェックインは15時、チェックアウトは11時です。約20時間という滞在時間の中で、どれだけ「何もしない」を楽しめるかが、この宿の過ごし方なのかもしれません。

日常では得られない余白の時間が、心と体を本当の意味で休ませてくれます。何もしないことこそが、最高の贅沢だと気づかされる滞在です。

アクセスと料金:加賀温泉駅から無料送迎あり

べにや無何有へのアクセスは、公共交通機関でも車でも便利です。金沢からも近く、旅行プランに組み込みやすい立地といえます。

1. JR加賀温泉駅からの無料シャトルバス

最も一般的なアクセス方法は、JR加賀温泉駅からの無料シャトルバスです。東京からは約3時間、大阪からは約2時間20分で加賀温泉駅に到着します。

宿への送迎は14時20分から18時まで随時運行されています。到着時間を事前に連絡しておけば、駅で待つことなくスムーズに宿まで移動できます。

帰りの送迎は、8時45分から11時15分まで30分ごとに運行されています。チェックアウト後も慌てることなく、ゆっくりと身支度を整えられるスケジュールです。

2. 小松空港からのタクシー手配サービス

飛行機を利用する場合は、小松空港からのアクセスも可能です。東京からは約1時間、福岡からは約1時間15分のフライトです。

小松空港から宿までは車で約30分です。事前に連絡すれば、タクシーの手配サービスを利用できます。料金は別途かかりますが、荷物が多い場合は便利です。

車で訪れる場合は、北陸自動車道の加賀インターまたは片山津インターから約20分です。駐車場は無料で、15台分のスペースが用意されています。

3. 宿泊料金の目安と予約方法

宿泊料金は、1泊2食付きで1人あたり31,500円から58,800円が目安です。客室のタイプや季節によって変動します。

特別室やエグゼクティブスイートは、通常の客室よりも料金が高めです。記念日や特別な旅行の際には、少し奮発して上級客室を選ぶのもいいかもしれません。

予約は公式サイトから可能です。電話での予約も受け付けており、フリーダイヤル0120-07-1340で問い合わせができます。

項目詳細
チェックイン15時00分
チェックアウト11時00分
客室数全17室(すべて露天風呂付き)
宿泊料金31,500円〜58,800円(1泊2食付き・1名)
送迎JR加賀温泉駅から無料シャトルバス
駐車場無料(15台)
クレジットカードVISA、Master、AMEX、JCB、ダイナーズ等
備考7歳以下の子供は宿泊不可

おわりに

べにや無何有は、忙しい日常から離れて自分と向き合うための場所です。何もしない時間を罪悪感なく過ごせる環境が、ここにはあります。

訪れる季節によって山庭の表情は変わり、何度来ても新しい発見があるはずです。春の新緑、夏の深い緑、秋の紅葉、冬の雪景色。四季それぞれに違う魅力が待っています。

一度訪れたら、きっとまた戻ってきたくなる宿です。からっぽの中にある豊かさを、実際に体験してみてはいかがでしょうか。